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zoom RSS 音楽家のジストニア:可塑性と局在について

<<   作成日時 : 2018/02/09 18:00  

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 音楽家のジストニアに関する解説記事が雑誌「医道の日本 1月号」に掲載されました。1月号では音楽家への施術をテーマに特集記事が組まれています。誌面では発症機序と当院での症例研究も含めた内容構成となっています。
 「医道の日本」は鍼灸の業界誌であり、治療家を対象としているため、専門的な内容も含まれています。当院のホームページにも音楽家のジストニアに関する記載はありますが、この場で「音楽家のジストニア」についての補足的な説明をしたいと思います。

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脳の可塑性について

 音楽家のジストニアを理解するためには「脳の可塑性」という言葉がキーワードとなります。可塑性の「塑(そ)」とは、「土をこねて形を作る」という本来の意味がありますが、形が変化して目的に応じた形態になるという意味で使われています。すなわち、脳の可塑性とはある目的に応じて脳の神経細胞が変性することを意味します。
 
 ちなみに可塑性を英訳するとplasticityですが、その語源はplastic(プラスチック)です。一般的にプラスチックといえば合成樹脂でできた製品をイメージしますが、本来のプラスチックの意味は熱で型押しされることで変化(変性)した状態を指します。逆に、可塑性の反対語は弾性(elasticity)です。弾性の特徴を表す最も適切な例はゴムのボールです。ボールを凹ませて力を加えても形は変わらず、元の形に戻ります。

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 話は本題に戻りますが、脳の可塑性とは、脳のどのような性質を意味するのでしょうか。音楽に限らず、スポーツにおいても我々が身体技能を向上させるためには練習を行います。練習すれば当然スキルは上達していきます。このとき脳は、スキルの上達に伴って神経細胞に変化が起きます。
 
 脳というものは千数百億個からなる神経細胞の集合体ですが、その神経細胞はスキルの獲得という目的に応じて、脳(脳の神経細胞)の特定の部位が、変化(変性)を起こすのです。変化を起こした神経細胞はかつての形態に戻ることなく、その形態を維持します。この変化によって、一度習得した技術は継続的に練習を重ねることで維持することができます。これを脳の可塑性と言います。

GFPneuron

                                 神経細胞

 では、更なるスキルの向上のために練習を積み重ねると脳の神経細胞はどのように変化するのでしょうか。本来脳は体の各部位を制御する部位があらかじめ割り当てられています。例えば、楽器演奏に関係する部位は運動感覚野と呼ばれており、その運動感覚野もさらに体の各部位を制御する部位が区分されています。

 同様に視覚や聴覚をつかさどる感覚に関する部位も区分されていますが、脳の機能は限局した部位に機能が存在していることから、この区分は脳機能の局在と呼ばれています。この局在は脳地図とも呼ばれています。下記の図(wikipediaより転載)はブロードマンの脳地図と呼ばれているものであり、図中の番号は脳の各機能が位置する局在が番号で表されています。
 
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 脳の機能は体の全ての部位の機能に命令を下し、それらの働きを制御していますが、制御する部位があらかじめ割り当てられています。例えば、上図の通り、大脳の左側のある部位は、言語を理解したり話したりする部位であったり、また、運動を制御する部位というように機能に特化して区分されていることがわかっています。

 運動野の局在を表す有名な図としてホムンクルスの図が知られています。運動野の各部位は体の部位ごとにさらに細かく区分されています。

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 音楽家の演奏動作に関して、最も密接に関係する局在部位は、指の動きや、微妙な力加減を制御する運動感覚野における局在です。芸術的な観点からの卓越した演奏技術とは、高度なテクニックと聴衆を惹きつける演奏であると定義できますが、神経科学的には、運動感覚野の神経細胞が発達することで演奏技術が向上した状態であるといえます。
 
 神経細胞が発達することは高度な演奏を実現するという点では有利なことですが、時としてこの発達が過剰になると、ジストニア発症の誘引となると言われています。

 音楽家においては、楽器の演奏動作に見られる巧緻動作(正確性が要求され、極めて複雑な動作)を長期的に反復することは、指の局在部位(運動を支配する皮質領域)が神経細胞の発達とともに、顕著に拡大することがわかっています。
 
 この局在部位が拡大すると、隣接する局在と重なることで目的とする動作が実行できなくなることがあります。この状態が固定化することが、音楽家におけるジストニアの主な原因と考えられています。

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 以上、ジストニアを理解するためにキーワードである可塑性と局在についてまとめてみました。これを読んでみると脳の神経細胞が変化してしまったのだから、もう元に戻らないのではないかと思う方もいるかもしれません。先に申し上げた通り、脳の神経細胞は、新たな可塑性を獲得するために絶えず変化し続けています。
 
 一度覚えたことも使わなければ忘れてしまいます。逆に、運動麻痺を抱えた患者さんが、喪失していた運動機能をリハビリテーションによって取り戻していくことも示されているように、脳の神経細胞は絶えず変化を続けているのです。

 ジストニアになったからといっても諦める必要はありません。これは声を大にして言いたいことです。一口にジストニアといっても症状の程度に個人差があるため、改善するまで相応の時間がかかる場合もありますが、新たな可塑性を獲得し、動作の障害となっている筋の緊張を取り除いていけば、必ず症状の改善は見られます。当院ではその可塑性に着目した治療法を行っております。(医道の日本1月号をご覧ください)年間相当の症例を拝見しておりますので、手の動作異常にお悩みの方は是非ご相談ください。

伊藤久敬
KOSAI Oriental Healthcare Center/広済鍼灸院
音楽家の鍼治療

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