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help リーダーに追加 RSS 引き算の美学

  作成日時 : 2005/06/26 20:52   >>

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真白な画面の中心に血液のような雫が一滴ぽとりと落ちる。
落ちた赤い雫はゆっくりと白い画面ににじみ始め、次第に大きくなり赤い円に変わっていく。
程なくして画面は揺れだし、それは日本の国旗へと変わり、はためく日の丸が映し出される。
そして阪神大震災の被災者への募金を呼びかけるテロップが示される。
これはかつてカンヌで開かれた広告フェスティバルでグランプリを
獲得したブラジルのCMである。

先日、友人たち4人と食事をする機会があった。
そのうちのひとりは広告会社を経営しており、また建築家の友人もいた。それぞれが異なる分野で仕事をしているので、興味深い話を聞くことができた。広告代理店の社長であるF氏は毎年6月になるとカンヌの広告フェスティバルに出かける。カンヌ広告フェスティバルとは世界各国からCMやポスターなどの広告作品が一同に集められ、その出来栄えを競う、あのカンヌ映画祭の広告版である。冒頭に挙げたブラジルのCMの話は数年前にF氏から聞いたもので、特に印象に残っているものだった。

F氏曰くカンヌでの受賞作品はどれもつくりがシンプルでストレートにメッセージが伝わるものだという。いかに効果的なメッセージを印象付けるか、ということに尽きるという。それはそうである。今まで記憶に残っているCMや広告はとてもわかりやすいものだったし、一目見ただけでいつまでも覚えている。広告は必要な要素を足したら、余計なものを引いていきながら作っていくとのことだが、優れた広告は余分なものが極限まで削ぎ落とされているという。コピーもひとつのセンテンスだけで心に深く刻まれるものがある。ひとつの単語、ワンセンテンスで年齢も職業も関係なく、極めてシンプルに誰でも分かるような表現力を求められることが広告の本来の形だという。

私たちはF氏の話を共感しながら聞いていると、建築の世界でもまったく同じことが言えるとN氏が言った。建築家であるN氏は構造設計を専門にしている。構造設計とは建築物の構造にかかわる部分の設計で、安全を考えて力学的な面から設計する仕事である。「僕らの仕事は強度が足りなければ、柱に強度を足していけばいいですから。ただ、それは誰でもできることですけど、同時に美しさも損なわれてしまう。美しい建築物は余計なものが一切ない。とてもシンプルなものです」美しさと機能性のバランスを保ちながら、余分なものを“引き算”していった結果、いい建物ができるとN氏は言った。

二人の話を聞いているうちに、医療(鍼灸も含めて)にも何か共通しているものを感じた。病気を治すためには治療が必要であり、その原因を取り除いていかなければならない。西洋医学では症状があればその症状を取り除くための薬が処方される。私は鍼灸師なので鍼や灸を使って患者さんの抱える症状を取り除いていく。取り除いていく、つまり病気を治していくこと自体には西洋医学も東洋医学も違いはない。薬は必要なものであり、私たちの命を助けてくれるものであるが、時として問題が起こる場合がある。たとえば薬づけ医療の問題である。どんな薬でも副作用を持っているので、長期的に強い薬を使用したり、何種類もの薬を服用していると副作用に悩まされることがある。薬は本来治療を目的として飲むものであるが副作用の出現によって余計な症状を新たに作り出してしまうこともある。本来は引き算をすべきなのに必要のない足し算をしているといえる。もちろん西洋医学は目覚しい進歩を遂げ、過去において到底助かる見込みのない病気を治し、多くの人命が救われている。しかし、慢性的な病気や症状においてはあまり効果的な解決法が見出されていないという現状も抱えている。

副作用もなく、病気を取り除くことができることが一番理想的な形なのだが、今後の現代医療に求められるものはいかに体に負担をかけずに病気を治していくかということがテーマである。

鍼灸は古来より経験医学とよばれ、私たちが日常遭遇するであろう症状を解消するための数多くの解決法を持っている。体にあまり負担をかけることなく症状を取り除いていくことができる。
これからの時代に生きる人々は上手に西洋医学と東洋医学を使い分けることで、病気になる要素を“引き算”していくことが健康への近道ではなかろうか。

by 伊藤 久敬 
KOSAI Oriental Healthcare Center /広済鍼灸院

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